AIに作ってもらった契約書、何も起きなければ大丈夫?――それ、契約書がなくても大丈夫です
①契約書はAIで作ったもので問題ない?
最近、SNSなどを見ていると、
「契約書なんてAIに作ってもらえばいい」
という話を見かけることがあります。
実際、AIにお願いすれば、それらしい契約書を作ってくれます。
例えば、
「動画編集を外注するときの業務委託契約書を作って」
と入力する。
すると、
・業務内容
・報酬・納期
・秘密保持
・著作権
・損害賠償
・契約解除
など、いかにも契約書らしい項目が並んだ文章が出てきます。
「おお、普通に契約書じゃん。」
となる。
これは確かに便利です。
では、その契約書を使って実際に取引をしてみた。
特にトラブルも起きなかった。
「ほら、AIに作ってもらった契約書で大丈夫だった。」
……という話。
ここで、ちょっとツッコミたい。
何も起きなければ大丈夫なのは、AIで作った契約書に限りません。
極端な話、契約書がなくても、何も起きなければ大丈夫です。
だから、
「何も起きなかった」
↓
「この契約書で問題なかった」
↓
「AIに作ってもらえば十分」
とは、必ずしも言えないのではないでしょうか。
②契約書の出番は、むしろ「何か起きたとき」
普通に取引が進んで、納品されて、支払いも終わった。
何の問題もなかった。
それなら、契約書の内容が細かく書かれていても、あまり出番はありません。
ところが、
「この作業までやってもらう契約だったっけ?」
「修正は何回までなの?」
「納品されたものが、こちらの想定と違う。」
「著作権はどうなるんだっけ?」
「契約を途中で終了したい。」
そんな話になったとき、契約書が登場します。
「で、この場合はどうすることになっていた?」
ここで初めて、契約書に書かれている内容が重要になってきます。
つまり、契約書は「何も起きないこと」を確認するためだけのものではありません。
むしろ、
何か起きたときに、当事者間で決めていたことを確認するためのもの
でもあります。
③AIが作る契約書は、かなり「それっぽい」
もちろん、ここでAIを否定するつもりはありません。
むしろ、かなり便利です。
例えば業務委託契約書を作ってもらえば、先にも挙げた通り、
「業務内容」
「報酬」
「納期」
「秘密保持」
「知的財産権」
「損害賠償」
「契約解除」
など、一般的な契約書に出てきそうな条項を整理してくれます。
文章も自然です。
昔なら、契約書のたたき台を作るだけでも、それなりに時間がかかったでしょう。
それがAIなら、かなり短時間で形になります。
問題は、
「契約書らしいものができた」ことと、「今回の取引に合った契約書ができた」ことは別だということです。
④「検収」と書いてあれば、検収について決まっている?
例えば、こんな条文があったとします。
「乙は成果物を納品し、甲は納品された成果物について検収を行う。」
なんとなく普通に見えます。
でも、ここで少し考えてみます。
「検収」って、具体的に何をするのでしょうか。
何を基準に合格・不合格を判断するのでしょうか。
何日以内に確認するのでしょうか。
不合格だった場合、乙はどこまで修正するのでしょうか。
修正は何回まででしょうか。
修正に追加料金は発生するのでしょうか。
甲がいつまでも検収しなかったら、どうなるのでしょうか。
こうして考えてみると、
「検収」という言葉が契約書に入っていることと、検収について十分に決まっていることは、同じではありません。
これはAIに限った話ではありません。
人間が作った契約書でも同じです。
ただ、AIが作った文章は非常に自然なので、
「ちゃんと書いてあるように見える」
というところには、少し注意が必要です。
⑤「AIへの指示をもっと細かくすればいい」は、その通り
ここで、
「いや、AIにもっと詳しく指示すればいいじゃん。」
という話もあります。
これは、その通りです。
例えば、
・YouTube動画を月4本編集する
・1本あたり○円・素材は発注者が提供する
・素材を受け取ってから○日以内に初稿を提出する
・修正は2回まで
・3回目以降は別料金
・完成した動画は発注者のYouTubeチャンネルで使用する
・SNS広告にも利用する
といった情報を具体的に入力すれば、AIもより具体的な契約書を作ることができます。
では、ここで一つ考えてみます。
その情報を、誰が整理するのでしょうか。
「月4本」ということは、1本の制作期間はどのくらいなのか。
「修正2回まで」ということは、何を修正として数えるのか。
「SNS広告にも利用する」ということは、動画そのものだけなのか、動画から切り出した素材も含むのか。
「完成した動画の利用」と「著作権の帰属」はどうするのか。
こういったことを決めていくと、単に契約書の文章を書くという話ではなくなってきます。
⑥契約書を作るときに考えるのは、文章だけではない
契約書というと、
「法律っぽい文章を書くこと」
が仕事だと思われることがあります。
もちろん、それも契約書作成の一部です。
でも、それだけではありません。
例えば、
誰が、何をするのか。
いつまでにするのか。
どこまでやるのか。
何をもって業務が完了したことにするのか。
追加の作業が発生したらどうするのか。
成果物や著作権をどう扱うのか。
何か問題が起きたら、どうするのか。
こういったことを整理して、その取引に合った形で契約書に落とし込んでいく。
そこまで含めて、契約実務なのだと思います。
AIが契約書の文章を書けるようになったからといって、
「何を決めておくべきなのか」という問題までなくなるわけではありません。
⑦じゃあ、AIは使わない方がいいのか?
私は、そうは思いません。
AIは便利な道具です。
例えば、
・契約書のたたき台を作る
・条項の候補を出す
・似た条文を比較する
・文章を分かりやすくする
・契約書の内容について質問する
・自分が見落としていた論点の候補を挙げてもらう
など、使える場面はたくさんあります。
「AIに契約書を作らせるな」という話ではありません。
むしろ、これからAIを使って契約書を作ることは、もっと普通になっていくのではないでしょうか。
ただ、「AIが作ったから大丈夫」と考えるのは、少し違う。
大事なのは、
「この契約書は、今回の取引に合っているのか?」
そして、
「何か起きたとき、この契約書で当事者が決めていたことを確認できるのか?」
というところではないでしょうか。
⑧「何も起きなかった」は、契約書の合格判定にならない
AIに作ってもらった契約書を使って、
何も起きなかった。
それはもちろん、良いことです。
でも、「何も起きなかったから、この契約書は大丈夫だった。」
とまでは言えません。
だって、
何も起きなかったなら、契約書がなくても大丈夫だったかもしれないからです。
契約書の本当の出番は、
「この場合、どうすることになっていたんだっけ?」
となったとき。
そのときに、当事者が決めていたことを確認できる。
だからこそ、
「それっぽい契約書を作ること」と「何か起きたときに役に立つ契約書を作ること」は、別の話です。
AIが契約書を作れる時代になったからこそ、
「何を書けば契約書っぽくなるか」だけではなく、
「この取引では、何を決めておく必要があるのか」
を考えることが、これまで以上に大切になるのかもしれません。
