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AIに作ってもらった契約書、何も起きなければ大丈夫?――それ、契約書がなくても大丈夫です

執筆者の写真: Yuuki Inoue
Yuuki Inoue
9月17日
読了時間: 6分

①契約書はAIで作ったもので問題ない?


最近、SNSなどを見ていると、

「契約書なんてAIに作ってもらえばいい」

という話を見かけることがあります。

実際、AIにお願いすれば、それらしい契約書を作ってくれます。

例えば、

「動画編集を外注するときの業務委託契約書を作って」

と入力する。

すると、

・業務内容

・報酬・納期

・秘密保持

・著作権

・損害賠償

・契約解除

など、いかにも契約書らしい項目が並んだ文章が出てきます。

「おお、普通に契約書じゃん。」

となる。

これは確かに便利です。


では、その契約書を使って実際に取引をしてみた。

特にトラブルも起きなかった。

「ほら、AIに作ってもらった契約書で大丈夫だった。」

……という話。

ここで、ちょっとツッコミたい。

何も起きなければ大丈夫なのは、AIで作った契約書に限りません。

極端な話、契約書がなくても、何も起きなければ大丈夫です。

だから、

「何も起きなかった」

↓

「この契約書で問題なかった」

↓

「AIに作ってもらえば十分」

とは、必ずしも言えないのではないでしょうか。


②契約書の出番は、むしろ「何か起きたとき」


普通に取引が進んで、納品されて、支払いも終わった。

何の問題もなかった。

それなら、契約書の内容が細かく書かれていても、あまり出番はありません。

ところが、

「この作業までやってもらう契約だったっけ?」

「修正は何回までなの?」

「納品されたものが、こちらの想定と違う。」

「著作権はどうなるんだっけ?」

「契約を途中で終了したい。」

そんな話になったとき、契約書が登場します。

「で、この場合はどうすることになっていた?」

ここで初めて、契約書に書かれている内容が重要になってきます。

つまり、契約書は「何も起きないこと」を確認するためだけのものではありません。

むしろ、

何か起きたときに、当事者間で決めていたことを確認するためのもの

でもあります。


③AIが作る契約書は、かなり「それっぽい」


もちろん、ここでAIを否定するつもりはありません。

むしろ、かなり便利です。

例えば業務委託契約書を作ってもらえば、先にも挙げた通り、

「業務内容」

「報酬」

「納期」

「秘密保持」

「知的財産権」

「損害賠償」

「契約解除」

など、一般的な契約書に出てきそうな条項を整理してくれます。

文章も自然です。

昔なら、契約書のたたき台を作るだけでも、それなりに時間がかかったでしょう。

それがAIなら、かなり短時間で形になります。

問題は、

「契約書らしいものができた」ことと、「今回の取引に合った契約書ができた」ことは別だということです。


④「検収」と書いてあれば、検収について決まっている?


例えば、こんな条文があったとします。

「乙は成果物を納品し、甲は納品された成果物について検収を行う。」

なんとなく普通に見えます。

でも、ここで少し考えてみます。

「検収」って、具体的に何をするのでしょうか。

何を基準に合格・不合格を判断するのでしょうか。

何日以内に確認するのでしょうか。

不合格だった場合、乙はどこまで修正するのでしょうか。

修正は何回まででしょうか。

修正に追加料金は発生するのでしょうか。

甲がいつまでも検収しなかったら、どうなるのでしょうか。

こうして考えてみると、

「検収」という言葉が契約書に入っていることと、検収について十分に決まっていることは、同じではありません。

これはAIに限った話ではありません。

人間が作った契約書でも同じです。

ただ、AIが作った文章は非常に自然なので、

「ちゃんと書いてあるように見える」

というところには、少し注意が必要です。


⑤「AIへの指示をもっと細かくすればいい」は、その通り


ここで、

「いや、AIにもっと詳しく指示すればいいじゃん。」

という話もあります。

これは、その通りです。

例えば、

・YouTube動画を月4本編集する

・1本あたり○円・素材は発注者が提供する

・素材を受け取ってから○日以内に初稿を提出する

・修正は2回まで

・3回目以降は別料金

・完成した動画は発注者のYouTubeチャンネルで使用する

・SNS広告にも利用する

といった情報を具体的に入力すれば、AIもより具体的な契約書を作ることができます。

では、ここで一つ考えてみます。

その情報を、誰が整理するのでしょうか。

「月4本」ということは、1本の制作期間はどのくらいなのか。

「修正2回まで」ということは、何を修正として数えるのか。

「SNS広告にも利用する」ということは、動画そのものだけなのか、動画から切り出した素材も含むのか。

「完成した動画の利用」と「著作権の帰属」はどうするのか。

こういったことを決めていくと、単に契約書の文章を書くという話ではなくなってきます。


⑥契約書を作るときに考えるのは、文章だけではない


契約書というと、

「法律っぽい文章を書くこと」

が仕事だと思われることがあります。

もちろん、それも契約書作成の一部です。

でも、それだけではありません。

例えば、

誰が、何をするのか。

いつまでにするのか。

どこまでやるのか。

何をもって業務が完了したことにするのか。

追加の作業が発生したらどうするのか。

成果物や著作権をどう扱うのか。

何か問題が起きたら、どうするのか。

こういったことを整理して、その取引に合った形で契約書に落とし込んでいく。

そこまで含めて、契約実務なのだと思います。

AIが契約書の文章を書けるようになったからといって、

「何を決めておくべきなのか」という問題までなくなるわけではありません。


⑦じゃあ、AIは使わない方がいいのか?


私は、そうは思いません。

AIは便利な道具です。

例えば、

・契約書のたたき台を作る

・条項の候補を出す

・似た条文を比較する

・文章を分かりやすくする

・契約書の内容について質問する

・自分が見落としていた論点の候補を挙げてもらう

など、使える場面はたくさんあります。

「AIに契約書を作らせるな」という話ではありません。

むしろ、これからAIを使って契約書を作ることは、もっと普通になっていくのではないでしょうか。

ただ、「AIが作ったから大丈夫」と考えるのは、少し違う。

大事なのは、

「この契約書は、今回の取引に合っているのか?」

そして、

「何か起きたとき、この契約書で当事者が決めていたことを確認できるのか?」

というところではないでしょうか。


⑧「何も起きなかった」は、契約書の合格判定にならない


AIに作ってもらった契約書を使って、

何も起きなかった。

それはもちろん、良いことです。

でも、「何も起きなかったから、この契約書は大丈夫だった。」

とまでは言えません。

だって、

何も起きなかったなら、契約書がなくても大丈夫だったかもしれないからです。

契約書の本当の出番は、

「この場合、どうすることになっていたんだっけ?」

となったとき。

そのときに、当事者が決めていたことを確認できる。

だからこそ、

「それっぽい契約書を作ること」と「何か起きたときに役に立つ契約書を作ること」は、別の話です。

AIが契約書を作れる時代になったからこそ、

「何を書けば契約書っぽくなるか」だけではなく、

「この取引では、何を決めておく必要があるのか」

を考えることが、これまで以上に大切になるのかもしれません。

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