「その情報、秘密かどうか判断していますか?」NDAを現場で運用するということ
- Yuuki Inoue
- 8月16日
- 読了時間: 5分
更新日:7 日前
「この情報は秘密情報です」
NDA(秘密保持契約)を締結するとき、多くの場合、「何を秘密情報として扱うのか」というルールを契約書に定めます。
例えば、
「秘密情報とは、開示者が秘密である旨を明示した情報をいう。」
という条項です。
一見すると分かりやすいルールですが、実際の業務では少し考えてみたい問題があります。
その情報が「秘密情報なのかどうか」、誰が、いつ判断するのでしょうか。
「これは秘密情報?」を現場で判断する
例えば、取引先との打合せで、担当者が新しいサービスの企画について説明を受けたとします。
契約書では「秘密情報」として明示された情報が秘密情報になることになっています。
では、その打合せで口頭で説明された内容はどうでしょうか。
担当者は、
「これは秘密情報として扱うべき情報だろう」
と判断しなければならないかもしれません。
別の日には、取引先からメールで資料が送られてきます。
その資料には「CONFIDENTIAL」と書かれていません。
担当者は、
「これは秘密情報なのか?」
と考えることになります。
さらに、営業担当者、技術担当者、経理担当者など、複数の社員が同じ情報を扱うことになれば、全員が同じ判断をできるとは限りません。
秘密情報かどうかを、情報を受け取った現場の担当者に判断させること自体が、NDAの運用上の負担になることがあります。
口頭で開示された情報はどうする?
特に難しいのが、口頭で開示される情報です。
例えば、打合せの中で、
「実は、まだ公表していない新しい事業計画がありまして……」
と説明されたとします。
その情報を秘密として扱うべきことは、通常は理解できるでしょう。
しかし、NDAの定め方によっては、
「秘密情報として明示されているか」
「後日、秘密情報であることを書面で通知する必要があるか」
などを確認しなければならない場合があります。
もちろん、重要な情報について厳格な管理を行うことには意味があります。
しかし、日常的に情報交換を行う取引では、すべての開示情報について「これは秘密か?」と判断することが、現場にとって本当に分かりやすい運用なのかという視点も必要です。
「開示された情報は原則として秘密」とする考え方
そこで、NDAの設計方法の一つとして、
「開示者から開示された情報は、原則としてすべて秘密情報として扱う」
という考え方があります。
もちろん、これだけでは範囲が広すぎるため、通常は一定の除外を設けます。
例えば、
既に公知となっている情報
開示を受ける前から適法に保有していた情報
正当な権限を有する第三者から取得した情報
受領者が独自に開発した情報
などです。
こうした除外事由を設けた上で、「秘密であると明示された情報だけを秘密情報とする」
のではなく、
「相手から開示された情報は、原則として秘密として取り扱う」
というルールにする方法です。
この方法であれば、現場の担当者が毎回、
「これは秘密情報だろうか?」
と判断する負担を減らすことができます。
「秘密かどうか」だけでなく、「何のために使うのか」
ただし、NDAを考える上では、秘密情報の範囲だけが重要なのではありません。
もう一つ重要なのが、
「その情報を何のために使ってよいのか」
という点です。
例えば、A社がB社に対して、新しいサービスについて相談するために企画資料を開示したとします。B社がその資料を第三者に漏らさなかったとしても、その内容を参考にして、自社で似たサービスを開発したとしたらどうでしょうか。
この場合に問題になるのは、単に「秘密を漏らしたか」だけではありません。
開示された情報を、本来予定されていた目的以外に使用していないか。
という問題です。
そのため、NDAでは、
情報を秘密として管理すること
定められた目的以外に使用しないこと
を分けて考えることが重要です。
NDAは「秘密を見分ける契約」なのか
NDAというと、
「秘密情報を漏らさないための契約」
というイメージが強いかもしれません。
もちろん、それはNDAの重要な役割です。
しかし、実際の業務では、
「何が秘密なのかを現場の担当者が毎回判断する」
という仕組みが、必ずしも運用しやすいとは限りません。
むしろ、
「相手から受け取った情報は、原則として大切に扱う」
という分かりやすいルールを設け、その上で、
「そもそも何のために開示された情報なのか」
を明確にしておく。
このような考え方も、NDAを実務で運用する上では検討する価値があります。
契約書は「書いてあること」だけでなく「運用できること」も大切
契約書は、法律的に整っていればそれで終わり、というものではありません。
実際にその契約書を使うのは、会社の担当者です。
担当者が毎回、
「この情報は秘密情報なのか?」
と悩まなければならない契約になっているのか。
それとも、
「相手から受け取った情報は原則として秘密として扱えばいい」
という分かりやすい契約になっているのか。
契約書を作るときには、条文の内容だけでなく、その条文が現場でどのように運用されるのかまで考えることが大切です。
NDAについても、「どの情報を秘密情報とするか」という条文だけを見るのではなく、
「この契約を、実際に担当者が無理なく守れるだろうか?」
という視点から見直してみると、違った問題が見えてくるかもしれません。
