なんで法務は「これ、請負ですか?準委任ですか?」と聞いてくるの?
- Yuuki Inoue
- 8月20日
- 読了時間: 7分
更新日:7 日前
「この契約、請負ですか?それとも準委任ですか?」
企業の法務部に契約書を確認してもらったことがある方なら、こんな質問をされたことがあるかもしれません。
「どっちでもいいじゃないか。業務をお願いする契約なんだから」
そう思ったことがある方もいるでしょう。
実際、契約が何の問題もなく進み、予定どおり仕事が終わり、報酬も支払われているのであれば、請負なのか準委任なのかが問題になることはないかもしれません。
では、なぜ法務はわざわざ確認するのでしょうか。
実は、法務が確認したいのは、契約書の名前そのものではありません。
その契約によって、
「誰が、何を、どこまで約束するのか」
を確認しているのです。
請負と準委任、なぜ区別するの?
請負と準委任は、どちらも「誰かに仕事をお願いする」という場面で登場する契約です。
そのため、「どっちも仕事をお願いする契約なんだから、似たようなものでしょう」
と思われるかもしれません。
しかし、両者では契約の中心となる考え方が異なります。
大まかにいえば、請負は「仕事を完成させること」を目的とする契約です。
一方、準委任は、一定の業務を行うことそのものが契約の中心になります。
例えば、
「この仕様のシステムを完成させ、納品してください」という契約と、
「毎月○時間、システム開発業務を支援してください」
という契約では、同じ「システム開発」に関する仕事でも、当事者が約束している内容は違います。
もちろん、実際の契約が請負なのか準委任なのかは、契約書のタイトルだけで決まるわけではありません。
大切なのは、実際の取引において何を約束しているのかです。
だから法務は、「この契約、請負ですか?準委任ですか?」
と確認するのです。
これは言い換えれば、
「この取引で、あなたの会社は相手に何を約束するつもりですか?」
という質問です。
間違った契約書を使うと、何が問題なのか
ここは少し極端に言ってみましょう。
請負の取引なのに準委任の契約書を使う。準委任の取引なのに請負の契約書を使う。
これは、少し大げさに言えば、
「部屋を借りる予定なのに、建物の売買契約書を作る」
ようなものです。
もちろん、請負と準委任が売買と賃貸借ほど単純に別物というわけではありません。
しかし、
「業務をお願いする契約なんだから、とりあえず手元にある契約書を使えばいい」
という考え方が危険なのは同じです。
なぜなら、契約書に書かれている内容によって、当事者が負う責任や、トラブルになったときの判断が変わってくるからです。
「でも、今までこの契約書で問題になっていないけど?」
ここで、こんな疑問が出てくるかもしれません。
「請負か準委任かなんて、今まで特に問題になったことがない。そこまで気にする必要があるの?」これは、もっともな疑問です。
実際、契約が順調に進んでいるときには、契約類型が多少曖昧でも問題が表面化しないことがあります。予定どおり仕事が終わり、発注者も受託者も納得して、報酬も支払われる。
そうなれば、「そもそも請負だったのか、準委任だったのか」をわざわざ争う必要はありません。
しかし、問題になるのは、何かが起きたときです。
例えば、
予定していた仕事が期限までに終わらなかった
発注者と受託者の間で「ここまでが契約の範囲」という認識が食い違った
仕様変更が発生した
途中で契約を終了することになった
仕事の結果について問題が発生した
報酬をめぐって当事者の意見が対立した
こうした場面になると、突然、「この契約では、そもそも何を約束していたの?」
という問題が表に出てきます。
つまり、
「今まで問題にならなかった」ことと、「契約内容に問題がなかった」ことは同じではありません。
たまたま、契約書の曖昧さが問題になる場面に遭遇しなかっただけかもしれないからです。
契約書は「トラブルになったとき」のためにある
契約書は、少し不思議な存在です。
取引が順調に進んでいるときには、ほとんど読み返されません。
むしろ、契約書を一度も見返すことなく、取引が終了することだって珍しくありません。
ところが、「話が違う」「そんな約束はしていない」「これは契約の範囲でしょう」「いや、それは追加の仕事でしょう」
となった瞬間、
「契約書には何と書いてありますか?」
という話になります。
つまり、契約書が本当に重要になるのは、契約が順調なときではなく、当事者の認識が食い違ったときです。だからこそ、契約を結ぶ段階で、「この契約は請負なのか、準委任なのか」を整理しておく意味があります。
「今まで問題がなかった」は、安全の証明ではない
例えば、これまで何年も同じ契約書を使って取引してきた会社があるとします。
過去の取引では、特に問題は起きませんでした。
すると、「この契約書でずっと問題なかったんだから、これからも大丈夫でしょう」
と思ってしまうかもしれません。
しかし、それは必ずしも正しくありません。
過去の取引で、
当事者同士の認識がたまたま一致していた
仕事が予定どおり終わった
お互いに細かい問題を気にしなかった
トラブルになりそうな事態が発生しなかった
というだけかもしれません。
つまり、「問題が起きなかった」のではなく、「問題が起きる場面がなかった」だけかもしれないのです。
契約書の不備は、トラブルが起きるまで表面化しないことがあります。
そして、いざ問題が起きたときには、「今までこの契約書でやってきたから」
という説明は、契約書そのものの内容を変えてくれるわけではありません。
契約書のひな形は「取引そのもの」ではない
ここで注意したいのが、契約書のひな形です。
インターネットで検索すれば、「業務委託契約書」「請負契約書」「準委任契約書」など、さまざまなひな形を見つけることができます。
もちろん、ひな形を利用すること自体が悪いわけではありません。
問題なのは、「実際の取引がどうなっているのかを確認せず、名前が近いひな形をそのまま使ってしまうこと」です。
契約書は、取引の実態に合わせて作るものです。
「業務委託だから業務委託契約書」
「システム開発だから請負契約書」
と機械的に決めるのではなく、
「この取引では、結局何を約束するのか?」
を考える必要があります。
法務が「請負ですか?準委任ですか?」と聞く理由
ここまで読んでいただくと、法務がこの質問をする理由も少し見えてくるのではないでしょうか。法務は、契約書のタイトルを決めたいわけではありません。
請負にしたい、準委任にしたい、ということ自体が目的でもありません。
確認したいのは、「この契約で、誰が、何を、どこまで約束するのか」
ということです。
そのうえで、
仕事の完成を約束するのか
一定の業務を行うことを約束するのか
報酬は何に対して支払うのか
途中で事情が変わったらどうするのか
契約を終了するときはどうするのか
といった契約条件を整理していきます。
その結果として、「請負として契約する」「準委任として契約する」という判断につながります。
「請負か準委任か」は、細かい分類の話ではない
「請負か準委任かなんて、法務は細かいことを気にするなあ」
と思われることもあるかもしれません。
でも、法務からすると、これは単なる分類の問題ではありません。
「この取引では、何を約束しているのか」
を確認するための、とても基本的な質問なのです。
契約が順調に進んでいる間は、請負でも準委任でも大きな問題にならないことがあります。
しかし、何かが起きたときには、「この契約では、どこまでやることになっていたのか?」「どこまで責任を負うことになっていたのか?」
という話になります。
だからこそ、契約書を作るときには、まず契約の名前を見るのではなく、
「この取引で、私たちは相手に何を約束するのか」
から考えることが大切です。
法務が「これ、請負ですか?準委任ですか?」と聞いてきたら、
「また細かいことを聞いてきたな」と思わずに、
「この契約で、何を約束することになるのかを確認しているんだな」
と思ってもらえればと思います。
