「取引実績として会社名・ロゴを公開?」契約書に潜む情報公開のリスク
- Yuuki Inoue
- 8月16日
- 読了時間: 6分
更新日:7 日前
「取引実績として、御社の会社名を当社のホームページに掲載させていただけませんか?」
取引先から、こんな依頼を受けたことはありませんか?
あるいは、契約書の中に
「乙は、甲の名称、商号、ロゴ等を、取引実績として自己のウェブサイト、営業資料その他の媒体に掲載することができる。」
といった条項が入っていることがあります。
「会社名を載せるだけなら、別に問題ないのでは?」
と思うかもしれません。
しかし、取引先の名前やロゴを公開することは、本当に「会社名を載せるだけ」の問題なのでしょうか。
「取引している」という事実そのものが情報になる
まず考えたいのが、
「A社とB社が取引している」という事実自体が、公開してよい情報なのか
ということです。
例えば、ある会社が特定のシステム開発会社にシステム開発を依頼していたとします。
そのシステム開発会社が、
「○○株式会社様のシステム開発を担当しました!」
ということを知ることができます。
会社によっては、これは特に問題のない情報かもしれません。
一方で、
どの会社と取引しているのか知られたくない
新規事業について外部に知られたくない
どのシステムを利用しているのか知られたくない
特定の業者との取引関係を公表したくない
など、取引先を公表すること自体に抵抗がある会社もあります。
つまり、
「会社名だけだから大した情報ではない」
とは、必ずしも言えません。
ロゴまで公開する場合は?
さらに注意したいのが、会社名だけでなくロゴの使用まで認める条項です。
例えば、「甲の商号、商標、ロゴ等を使用することができる。」といった条項です。
会社のロゴは、単なる文字情報ではありません。
それを自社のホームページや営業資料に掲載すれば、
「この会社が当社のサービスを利用しています」
ということを、視覚的にアピールできます。
特に営業資料などで、導入実績 ○○株式会社△△株式会社□□株式会社
と並べられていると、それを見た第三者は、
「この会社は、これらの企業と取引しているんだな」
と理解します。
もちろん、取引先として掲載されることを積極的に希望する会社もあります。
しかし、掲載される側からすると、「自社の名前やロゴを営業活動に利用されること」を当然に認めてよいのかは別の問題です。
どこまで公開されるのか?
情報公開に関する条項を見るときは、
「公開することができる」
という一言だけで判断しないことが大切です。
例えば、次のような点を確認してみます。
① 何を公開できるのか
会社名だけなのか
ロゴも含むのか
商標も含むのか
導入サービス名も含むのか
導入事例も含むのか
コメントやインタビューも含むのか
② どこで公開できるのか
自社ホームページ
営業資料
パンフレット
SNS
展示会
プレスリリース
広告
など。
「ウェブサイトへの掲載」だけを想定していたのに、契約書では「その他の媒体」まで含まれている、ということもあります。
③ いつまで公開できるのか
契約期間中だけなのか。
それとも、契約終了後も掲載できるのか。
ここも確認したいところです。
一度公開された情報は、完全にはコントロールできない
情報公開についてもう一つ考えておきたいのが、
「一度公開した情報を、後から完全に回収することは難しい」
という点です。
例えば、取引先のホームページに会社名が掲載されていたとします。
その後、契約が終了したため、
「ホームページから削除してください」
とお願いしたとしても、公開されていた情報がすべて消えるとは限りません。
誰かがスクリーンショットを撮っているかもしれません。
営業資料として配布されているかもしれません。
SNSなどに転載されているかもしれません。
検索エンジンに情報が残っている可能性もあります。
もちろん、だからといって取引実績の公開が必ず問題になるわけではありません。
ただ、「後から嫌になったら消してもらえばいい」
と簡単に考えるのではなく、公開する前に、どこまでの情報を、どのような条件で公開するのかを決めておくことが重要です。
「取引実績として公開すること」自体を禁止する必要はない
では、情報公開条項は削除すればよいのでしょうか。
必ずしもそうとは限りません。
取引先にとって、
「この会社と取引しています」
という実績は、営業上非常に価値のある情報です。
そのため、取引実績としての掲載を認めること自体には合理性があります。
重要なのは、
「何でも自由に公開していい」とするのではなく、どこまでなら公開していいのかを決めること
です。
例えば、会社名の掲載は認めるが、ロゴの使用には別途承諾を必要とする」
あるいは、「会社名およびロゴの掲載は、事前に甲の承諾を得た場合に限る」
など、公開の範囲や条件を調整する方法があります。
また、「契約終了後は掲載を中止する」
といった条件を設けることも考えられます。
「そんなことまで契約書で決めるの?」と思ったら
取引実績の公開は、一見すると契約の本質とは関係のない、細かい話に見えるかもしれません。
しかし、契約書に、「相手の会社名やロゴを自由に使用できる」
という権利が与えられていれば、それは契約当事者にとって無視できない内容です。
特に、
「取引していること自体を公開してよいのか」
という点は、契約締結前に一度考えておいた方がよいでしょう。
契約書をチェックするときには、秘密保持条項はちゃんと入っているから大丈夫」
と考えるだけではなく、
「別の条項で、逆に情報を公開することを認めていないか?」
という視点も必要です。
契約書を見るときは「情報が外に出る経路」まで考える
契約書の情報管理というと、秘密保持条項に目が行きがちです。
しかし実際には、
秘密保持条項
個人情報に関する条項
知的財産権に関する条項
広報・広告に関する条項
取引実績の公開に関する条項
など、複数の条項が情報の取り扱いに関係しています。
だからこそ、契約書を読むときには、
「この契約によって、自社のどんな情報が相手に渡り、相手はそれを何に使えるのか?」
という視点を持ってみることをおすすめします。
会社名やロゴの掲載も、その一つです。
「取引実績として掲載するだけ」と思っていた条項が、実際には想像以上に広い情報公開を認める内容になっていることもあります。
契約書は、条項を一つずつ読むだけではなく、「この契約を結んだら、現実に何が起こるのか」を想像しながら読む。
それだけでも、見落としていたリスクに気づきやすくなるはずです。
