NDA(秘密保持契約)の本質は「秘密保持」だけではない?実は重要な「目的外使用の禁止」とは
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はじめに
「NDA(秘密保持契約)は、秘密を漏らさないための契約ですよね?」
このような質問を受けることがあります。
もちろん、この理解は間違いではありません。しかし、実務の現場では、NDAの役割はそれだけではありません。
むしろ、多くの企業がNDAを締結する本当の理由は、「秘密を漏らされること」以上に、「開示した情報を勝手に利用されること」を防ぐためにあります。
この記事では、NDAの本質ともいえる「目的外使用の禁止」という視点から、秘密保持契約の役割を解説します。
NDAは「秘密を守る契約」というイメージが強い
NDA(Non-Disclosure Agreement)は、日本語では「秘密保持契約」と呼ばれます。
そのため、多くの方は、
第三者へ情報を漏らさない
SNSなどで公開しない
社外へ持ち出さない
という「漏えい防止」の契約だと考えています。
確かに、秘密保持義務はNDAの重要な内容です。
しかし、それだけでは十分とはいえません。
本当に怖いのは「漏えい」より「利用」
例えば、システム開発会社へ新しいサービスを依頼するとします。
見積りや提案を受けるために、
サービスの企画書
システム仕様書
ビジネスモデル
顧客情報
などを開示することがあります。
このとき、本当に避けたいのは何でしょうか。
もちろん、第三者へ情報を漏らされることは問題です。
しかし、それと同じくらい、あるいはそれ以上に問題となるのが、
アイデアを自社サービスへ流用される
ノウハウを別案件で利用される
顧客情報を営業活動へ利用される
競合他社向けの開発に利用される
といったケースです。
つまり、「秘密は守っているが、勝手に利用している」という状況です。
秘密保持義務だけでは防げないことがある
仮に契約書に
「秘密情報を第三者へ開示してはならない」
という条項しかなかった場合を考えてみましょう。
相手方が情報を社外へ漏らしていなくても、
「社内で研究開発の参考にした」
「営業資料の作成に利用した」
「他のプロジェクトで活用した」
というケースでは、「第三者への開示」はしていないため、契約違反かどうかが明確でない場合があります。
そこで重要になるのが、「目的外使用禁止条項」です。
NDAの重要な役割は「目的外使用の禁止」
NDAには、
「秘密情報は、本件取引の検討、交渉及び履行の目的に限って使用する。」
といった条項が設けられることが一般的です。
この条項によって、
契約交渉
見積り
システム開発
業務遂行
など、契約で定めた目的以外の利用は禁止されます。
つまり、情報を外部へ漏らしていなくても、契約で定めた目的以外に利用すれば契約違反となる可能性があります。
これがNDAの非常に重要な機能です。
「目的」の書き方が重要になる
目的外使用禁止条項があっても、「目的」が曖昧であれば十分な効果を発揮できません。
例えば、
「本件に関する目的」
という抽象的な表現では、どこまで利用が許されるのか判断が難しくなります。
一方で、
「○○システム開発契約の締結に向けた検討及び当該契約の履行のため」
などと具体的に定めれば、利用できる範囲が明確になります。
NDAを作成・レビューする際には、この「目的」の記載も重要なチェックポイントの一つです。
「目的」が不適切だと、どのようなリスクがあるのか?
NDAでは、「秘密情報を本件業務のためにのみ使用する」といった目的外使用禁止条項が設けられることが一般的です。
しかし、その「本件業務」や「目的」の内容が曖昧・不適切だと、情報の利用範囲をめぐってトラブルになるおそれがあります。
ケース1 他案件への流用
A社はシステム開発会社B社に新サービスの企画を相談するため、事業構想や画面イメージを開示しました。
ところが、NDAには「本件に関する業務のために使用する」としか記載されておらず、「本件」が何を指すのか明確ではありませんでした。
その後、B社は類似するシステムを別の顧客向けに開発する際、A社から得たノウハウを参考にしました。
B社は「第三者に秘密情報を開示したわけではなく、社内で参考にしただけ」と主張するかもしれません。
一方、A社としては、「今回の取引を検討するためだけに情報を開示したのであり、他案件への利用は認めていない」と考えるでしょう。
このように、利用目的が曖昧だと、契約違反かどうかを巡って争いになる可能性があります。
ケース2 営業活動への利用
デザイン会社が制作会社へ営業戦略や顧客情報を開示したところ、制作会社がその情報を自社の営業活動やマーケティング資料の作成に利用したとします。
情報は社外へ漏えいしていないため、「秘密保持義務には違反していない」と反論される可能性があります。
しかし、開示者としては、そのような利用を認めるつもりで情報を渡したわけではありません。
「契約締結の検討及び当該業務の履行のために限って使用する」といった形で利用目的を限定していれば、このような利用は目的外使用として問題となる余地があります。
ケース3 AIの学習データとして利用される
近年では、開示した資料やデータをAIの学習やモデル改善に利用することも現実的なリスクとなっています。
契約書に利用目的が明確に定められていなければ、「社内での技術改善のために利用しただけ」という説明がされる可能性もあります。
AIを活用する事業者との取引では、「AIの学習、モデル開発その他これらに類する目的で利用してはならない」といった規定を検討する場面も増えています。
利用目的はできるだけ具体的に定める
利用目的は、抽象的に記載するよりも、
「○○システム開発契約の締結に向けた検討及び当該契約の履行のため」
「本件デザイン制作業務の見積り、契約締結及び履行のため」
など、具体的に定めることで、利用できる範囲が明確になります。
NDAは「秘密を守る契約」であると同時に、「情報をどこまで利用してよいかを定める契約」でもあります。
そのため、「目的」の記載は、NDAの中でも特に慎重に検討すべき条項の一つといえるでしょう。
NDAは「秘密保持」と「目的外使用禁止」の両方が重要
もちろん、秘密保持義務が不要という意味ではありません。
第三者への漏えいを防ぐことも、NDAの重要な役割です。
しかし、実務では、
情報を漏らさないこと
情報を勝手に利用しないこと
この二つがそろって初めて、開示者の利益を適切に保護できます。
NDAは単なる「口止め」の契約ではなく、「情報の利用方法をコントロールする契約」でもあるのです。
まとめ
NDAというと、「秘密を守る契約」というイメージが先行しがちです。
しかし、実務上は、開示した情報を契約で定めた目的以外に利用させないことも極めて重要です。
そのため、NDAを作成・レビューする際には、
秘密情報の定義
利用目的
目的外使用の禁止
秘密保持義務
返還・廃棄義務
損害賠償
などの条項を総合的に確認する必要があります。
NDAは「秘密を守る契約」であると同時に、「情報を適切に利用させるための契約」でもあります。
契約の目的や取引内容に応じて内容を調整することで、情報漏えいだけでなく、情報の無断利用というリスクも防ぐことができます。
